ギター バックナンバー

乍東十四雄('08年11月号)

乍東十四雄

日常と妄想を行き来する素っ頓狂でポップな突然変異体


乍東十四雄〈サトウトシオ〉。友人の父親の名前をモジったという、この人を喰ったかのようなバンド名を是非記憶に留めておいて頂きたい。あるいは、今年の“FUJI ROCK FESTIVAL”におけるROOKIE A GO-GOですでに彼らのステージを観た人もいるかもしれない。現実世界と妄想の狭間を激しく行き来しつつ、その境界線の区別がつかなくなってしまったかの如き混沌っぷりが全編を覆うものの、彼らの音楽の本質には純度の高いポップのキラメキ感がある。それが少しも作為的ではなく、ピュアな輝きを保っているのは、彼らが真っ向から音楽と戯れているからだろう。音の出るオモチャを使って気の合う友達と一緒に音を出す快楽を熟知しているからだろう。これぞまさにポップな突然変異体、キラキラJUNK POPの決定打。予測不能なニュー・ジェネレーションの登場である。(interview:椎名宗之)


みんなで建てた“かわいい女の子スタジオ”

──皆さんは今も伊豆に在住とのことなんですが、“かわいい女の子スタジオ”なる活動拠点があるそうですね。

高梨哲宏(以下、高):山に小屋を建てて作ったスタジオなんですよ。ホントは建てちゃいけない場所なんですけど。完成して1年ちょっと経つのかな? 凄く苦労して建てたので、かわいい女の子に見せて褒められたいなと思って名付けました。

──え、自力で作ったんですか? メンバーに建築を学んだ人でもいたとか?

高:いや、見よう見まねで自力で作ったんですよ。とりあえず曲作りと同じ感じで、頭の中で考えて、木を組んで。木材はホームセンターで買ってきました。森林の杉が生えている所をチェーンソーで切って、そこに建てたんです。ちょうど都合良く電柱が近くにあったので、電気屋に頼んで電気を通してもらって。ちゃんと電気代も払ってますよ、1500円くらいですけど。

──随分と思いきったことをしでかしましたね(笑)。

高:だって、バンドを続けてるとスタジオ代が結構バカにならないじゃないですか? 毎月5、6万は掛かってましたから。だったらいっそのこと、スタジオを作っちゃえばお金も掛からないだろうなと考えたわけですよ。

──なるほど。で、満を持してのファースト・アルバムなんですが、これも“かわいい女の子スタジオ”で録ったんですか。

高:いや、今回は都内のステキなスタジオで録らせてもらいました。“かわいい女の子スタジオ”で全部自分たちで作業をするのは無料配布の音源の時にやったので、もうイイやと。一度全部プロの人に任せたらどんなCDができるんだろう? と思って、作業を全部やってもらうことにしたんですよ。エンジニアの方を“かわいい女の子スタジオ”に招いて録ってもらうこともいずれやってみたいですけど。

──今度のアルバムには『パラダイス』や『スチュワーデス春子』のように、ひとつの曲の中に2、3個もしくはそれ以上のアイディアが詰まっている曲が多いですよね。ああいう楽曲はあらかじめ組み立てを想定しているんですか。もしくはセッションで固めていったりとか。

高:あれは全部僕の頭の中で作って、みんなに伝えて形にします。セッションだとああいう展開にはならないですね。あの手の曲を作れる人はいっぱいいると思うし、逆に『やさしいパンクス』みたいな曲は難しい。

──ああ、『やさしいパンクス』はアルバムのリード・トラック的な位置付けのキャッチーなポップ・チューンですからね。

高:ごまかしが利かないんですよ。『スチュワーデス春子』とか『パラダイス』はある意味ごまかしてますから(笑)。展開が込み入ったほうが作るのは簡単だと思います。

──はっぴいえんどを彷彿とさせる『胸いっぱい』のような、情緒に溢れた楽曲も作るのは難しいですか。

高:基本的には作ろうとして作ってるんじゃなくて、向こうからやって来る感じなんですよ。それをメンバーに伝えて、アレンジの細かい部分はみんなに委ねてます。『胸いっぱい』とか『無題』みたいに聴かせる感じの曲は、ライヴで唄うのが結構大変なんですよね。逆に『パラダイス』とかは基本的に淡々と、たまにワッとやるくらいなのでそれほどでもない。

──噛み合ってるんだか噛み合ってないんだか判らないけど妙な心地良さのあるコーラスが特徴的ですけど、あれは全員で?

高:基本的には全員でやりたいんですけど、「ギター弾いてるとできない」とか「ベース弾いてるとできない」とか言われるので、じゃあしょうがないかな、って。

──諦めが早いですね(笑)。では、ドラムの鈴木R安季彦さんが主にコーラスを?

高:鈴木君が大活躍ですね。ギター(大井ヒロシ)とベース(青木俊)は、基本的に唄わないほうが格好イイと思っているんじゃないですかね。

曲は宇宙から降りてくる感じ

──高梨さんもギターを弾いているし、大井さんとの弾き分けやハモリはあらかじめ決めているんですか。

高:いえ。彼の弾くギターが好きなので、全部考えてもらってます。彼は指図されるのがイヤな人なので、自分で全部決めたいみたいです。でも、そこは凄く助かってますね。逆に、何も言わずに僕が言ったことだけをやるような人でも困るじゃないですか。

──ああ、そういう発想なんですか。もっと独裁的な体裁を取るバンドもいますけど。

高:そしたらバンドの意味がなくなっちゃいますから。言ってきてくれたほうがイイです。まァ、曲に関しては全く口出ししてきませんけどね。自分の弾くものに関しては凄く決めてきます。

──ギターに過剰な味付けをされても構わない?

高:はい。そういうのは1回くらいしかないと思いますよ。「そこ弾かないで」っていうのは。ベースもドラムも任せてる感じだし。「ここはこうして」みたいなことは言いますけどね、特にドラムには。

──歌詞は雲をつかむ感じというか、独特としか言い様のない不思議な味わい深さがありますけど、奇をてらっているわけではないんですよね?

高:歌詞はメロディと同時に出てくるので、考えて書いてはないですね。まず1番の歌詞を作って、2番、3番の歌詞はスタジオでそのまま唄いながら作ってます。意味よりも言葉の響きを優先にしてますね。2年くらい前までは頑張って意味のある日本語詞を書いてたんですけど、意味のあるものだとか、ちゃんとした日本語になっているかとか、そういうのがめんどくさくなっちゃったんですよ。で、別に意味として成り立たなくてもイイかなと思って。それでも、今度のアルバムに入ってる曲はまだちゃんとした日本語になってるほうだと思いますけどね。

──何者かに突き動かされて書いているというか、自分を触媒として言葉とメロディを降ろしている感覚はありますか。

高:それですね、多分。僕はそれを宇宙だと思ってますけど。宇宙から降りてくる感じですね。歌詞を書いた1年後とか1ヶ月後とかにその歌詞を見ると、“あ、こういう意味だったんだ”って気づくことが僕はよくあるんですよ。歌詞を書いた1年後に起きた出来事を予知するような言葉を使ってたりして。それに気づいた時は自分で勝手にグッときてますけどね(笑)。

──『スチュワーデス春子』の後半のセリフの部分とか、『パラダイス』の中盤に入るラップとか、ああいう試みも自然発生的なものなんですか。

高:ブルーハーブとか、ラップ的なものも好きなんですよ。まァ、全然マネはできてないし、僕がやると気持ち悪くなるだけですけど(笑)。

──『芋虫』を聴いて連想したのは、カフカの『変身』なんですけど…。

高:『芋虫』は、カフカというより江戸川乱歩ですね。『芋虫』は一番古い曲なんですよ。確か3、4年前に作った曲です。別に江戸川乱歩に詳しいわけでも何でもないんですけど、あのおどろおどろしい世界観は好きですね。

──高梨さんの声はどこか素っ頓狂なところがあるし、極端に熱くも冷たくもなく、至ってニュートラルなんですよね。だから“ぬめぬめ接吻の雨”と唄っても余り気持ち悪さを感じさせないというか。

高:きっとCDだからじゃないですかね。ライヴではお客さんから相当気持ち悪がられてますよ。自分の声のことは何とも思ってないですけど、この間、友達のバンドがライヴの転換中に僕らの新しいCDを流していたのを聴いて“あれ、声がいいな”とは思いました(笑)。それはエンジニアさんの腕が素晴らしいんだと思います。

──ブッチャーズやtoddleなどの諸作品でも知られる植木清志さんがエンジニアとして参加されているんですよね。植木さんにはどんなオファーを?

高:ちょいちょいしてましたけど、それよりも僕はプロの仕事ぶりが知りたかったので、逆にアドバイスをくださいって感じで。一番覚えているのは、「歌を唄う時にギターを持ってやったら?」と言われたことですね。最初、ギターを持ってない時はどういうわけかいつも通り唄えなくて、アドバイス通りギターを持ったら自然と唄えるようになったんですよ。

ノートの端っこに落書きをする感覚

──音楽も小説も映画も、あらゆる表現は虚構の世界じゃないですか。でも、こうして話を伺っていると、高梨さんの作風には作為的な匂いがまるで感じられませんよね。

高:そういうのはないですね。作品というか、記録なんです。レコーディングのやり方もそうだったんですけど、作品を作ろうって感じじゃなくて、音というよりも雰囲気を記録するっていう。

──ということは、曲作りも日記を書く感覚に近い?

高:落書き、ですね。チラシの裏ではなく、ノートの端っこのほうに落書きをしてる感じ。メモ帳みたいなものに絵を描くんですけど、曲作りはそれと同じ感覚ですね。今もあるんですけど、ちょっと見てもらえますか?(と、カバンから6つに裁断した落書き帳を取り出す)

──ああ…お見せできないのが残念ですが、公式サイトのトップページにあるイラストによく似たものが描かれております(笑)。

高:こういうのを普段から持ち歩いていて、普段からよく落書きをしてるんですよ。この落書きも伊豆からの移動中に描いたんです。

──随分と達者なイラストですよね。こういうのを見ると、高梨さんの行き着くところは別に音楽じゃなくてもイイんじゃないかという気もしますけど。

高:いや、それはないですね。やっぱり音楽が面白いんですよ。ただ、『スチュワーデス春子』は最初に小説を書きたいと思って浮かんだアイディアなんです。タイトルをどうしよう? って考えたら、『スチュワーデス春子』っていう言葉が浮かんで。じゃあスチュワーデス春子はどういう人物にしよう? って考えたら、ホームレスだな、と。スチュワーデス春子っていうホームレスがいて、その人は目が覚めるとサンダルが盗まれていて…みたいな。でも、途中まで書いていたら、やっぱり小説なんて書けないなと思って、それをそのまま歌にしようとしたんです。そのまま唄ったらどんどん物語が進んでいったんですよ。

──小説は、ケツをまくってある程度のオチを付けないといけませんよね。それが歌だと、たとえ尻切れトンボの結末でも受け止め方は千差万別だし、物語の結末は聴き手に委ねることもできる。そういう違いはありますよね。

高:小説や映画にもちゃんと完結してないのが多くないですか? どうもすっきりしないようなのが。

──確かに。ただ、乍東十四雄の歌もオチらしいオチは少ないと思いますけど(笑)。

高:まァ、僕も好きなように書いてますからね。余り聴く人のことを考えずに書いてるところはあるかもしれません。

──でも、落書きってそういうものじゃないですか。最後まで丁寧に描き切ったら、それは落書きじゃなくなりますよね。

高:完結させようとするとムリをしてしまうので、ムリはもうイイわ、っていうか。ムリをすると必要以上に疲れちゃうんですよ。

──身の丈に合わないことはしない主義?

高:たとえば、MCってライヴで重要じゃないですか。でも、僕が喋るとテンション下がってる感じの雰囲気になってしまう。だからテンションが上げる感じでイエーイ! イエーイ!みたいなノリで行こうと思う時もあるんですけど、実際はそういう人間じゃないので。

──イエーイ! イエーイ!なノリとは対極に位置するキャラクターですからね(笑)。

高:だから考え直します。考えないように考え直します。結局、今までもそういう生き方をしてきたんじゃないですかね。強いヤツには力んでも勝てないので(笑)。



first album
乍東十四雄

01. 透明
02. やさしいパンクス
03. スチュワーデス春子
04. 胸いっぱい
05. パラダイス
06. 頭の中の遺伝子は脳の頭の中の遺伝子はNO!!!
07. 犬の名前はジョンにしよう
08. 無題
09. 芋虫
Mule Records/Moving On ANTX-1013
2,000yen (tax in)
IN STORES NOW

★amazonで購入する

Live info.

東名阪ツアー『むしろロックはこのアタシ』
11月3日(祝・月)静岡沼津WAVE[with:シャムキャッツ、テングインベーダーズ、herpiano]
11月12日(水)下北沢Que[with:松崎ナオ、星羅、未完成VS新世界]
11月20日(木)名古屋CLUB ROCK'N'ROLL[with:ザ・フロイト、EUREKA、ドウナノ]
11月21日(金)大阪十三Fandango[with:らせん、ザ・アウトロウズ]
12月13日(土)渋谷LUSH[ツアーファイナル・ワンマン]

乍東十四雄 official website
http://satoutoshio.com/

posted by Rooftop at 09:00 | バックナンバー