ギター バックナンバー

ミドリ:exclusive live report('08年11月号)

exclusive live report ミドリ

パンクって何や!? ロックって何や!? 音楽は誰のもんや!?
生粋のライヴ・バンドであることをまざまざと見せ付けた怒濤のワンマン!


関東では今年5月に下北沢シェルターで行なわれたライヴ以来のミドリのワンマンである。
ほぼ10分押しで始まったライヴは、長尺のSEの後に現れた小銭喜剛(ドラムス)、ハジメ(鍵盤)、岩見のとっつあん(ベース)の3人によるフリーキーなアンサンブルから始まった。ジャズを基調としたとてもスリリングな演奏で、岩見加入後のミドリが音の強度を増したこと、そしてこの第2期ミドリが極めて高度な音楽性を志向していることを改めて痛感する。
そして、丸坊主だった髪が少し伸び、目の周りを黒く塗った後藤まりこ(ギターと歌)がステージに姿を現すやフロアは怒号にも似た歓声が巻き起こる。その歓声に対して「うるさい!」と一喝する後藤。慣れたものでオーディエンスの一部からは笑い声も起こるが、そんな反応をよそに『うわさのあの子』、『ロマンティック夏モード』とのっけからフルスロットルの大暴走。ぐいぐいとフロアの熱を上げていく気迫のこもったバンドの演奏に、オーディエンスも息せき切ったかのようなダイヴの洪水で応える。
「来てくれてありがとう。死ね! 死ね! 死ね!」
愛憎を交互に繰り返す、最初のMCから如何にも後藤らしい挨拶。その姿は、まるで天使と悪魔が入り乱れた化身のようだ。
『ゆきこさん』、『愛のうた』と殺傷能力の高いナンバーで尚も容赦なくオーディエンスを挑発し、後藤は何度も激しくマイク・スタンドを叩き付ける。その度にスタッフが立て直しにやって来る。その姿が何とも滑稽で、殺伐とした演奏との対比が面白い。
それにしても、つくづくコクとキレのあるアンサンブルである。ハウリングしまくる後藤のギターと記名性の高い歌声、変幻自在に宙を舞うハジメの鍵盤、それらを的確なピッチとデンと構えた重さで支える小銭のドラムと岩見のベース。三位一体ならぬ四位一体なその凶暴な音の塊は、1000人以上のキャパシティを誇るチッタでも、僅か250人収容のシェルターでも、密集度に関係なく聴く者の五感を斬りつけんばかりに突き刺さってくる。
事件は5曲目の『5拍子』で起きた。後藤が突然唄うのをやめ、マイク・スタンドをステージの下のほうにブン投げている。ゴン、キーン、ゴン、と何かがマイクにぶつかる音が響きわたる。それだけでは収まらず、今度は後藤自身がステージから降りて何やら怒鳴り散らしている。
『5拍子』は最新作『あらためまして、はじめまして、ミドリです。』の中でも際立って旋律の美しい曲で、個人的にもじっくりと聴きたかったのでこのハプニングは少々残念だった。とは言えこの後藤の振る舞いは、ミドリのライヴが常に抜き差しならない危うさを秘めていること、ステージに懸けるバンドの真摯な姿勢が改めて窺える一件だった。そして、こうした場外乱闘があっても、小銭、岩見、ハジメの3人がひたすら演奏に没頭して全体のガイドラインを崩さない姿に頼もしさも感じた。
その後もライヴという名のドキュメンタリーは続く。『ドーピング☆ノイズノイズキッス』の最後で後藤はドラム・セットを派手に崩し、ピート・タウンゼントもかくやの勢いでフェンダー・トルネードのギターを執拗に床に叩き付ける。そしてその破片を客席に放り投げる。我先にと破片を掴もうとする最前列のオーディエンス。
そうしたやり取りは、ロックのライヴにおけるカリカチュアと感じた人もいたかもしれない。だが、ミドリのライヴは戯れに描かれた絵と対極にある迫真のドキュメンタリーなのである。後藤は何を思ったのか、破壊したギターのボディを後方のマーシャル・アンプに黒いガムテープで巻き付けるという奇怪な行動に出た。これは音楽のミューズをまつる儀式なのか? 神聖なるステージの上で、悲しみを鎮めるために愛用のギターを生け贄として捧げたのか? それとも単に、レッドゾーンをとうに振り切った後藤の衝動に駆られた行動なのか? いずれにせよ、一心不乱にボディを巻き付ける後藤の姿にオーディエンスは固唾を呑んで見守る。その一見シュールな所作に笑いのひとつが起きても良さそうなものだが、真剣な眼差しでアンプのオブジェを完成させようとする後藤の全身からはなにびとも寄せ付けない凄味が発せられていた。
完全にギターを葬り去った後は、それまで以上に縦横無尽にステージを奔走する後藤。『お猿』では最前列のオーディエンスの腕を支えに渡り歩き、人気の高い『あんたは誰や』ではスピーカーによじ登り、そこから客席へと目掛けてダイヴ。オーディエンスの頭上で暴れるだけ暴れ回り、ミドリの真骨頂は他ならぬライヴ・パフォーマンスであることをまざまざと見せ付けた。
本編最後の『POP』が終わる頃にはすでに開演から1時間ちょっとが経過していたが、体感時間としてはその半分くらいの感覚である。当然、オーディエンスはアンコールを求めてやまない。この日の小粋なサプライズは、「新曲やって帰るわ」と、予定になかったアンコールに応じて真っ新な新曲を披露したことだ。恋しくて泣いた、と唄われる歌詞で、胸が締め付けられる儚いメロディだったように記憶する。この日の喧噪をすべて洗い流すような気高く美しい楽曲だった。
ライヴがはねて会場を後にし、JR川崎駅へと向かいながら後藤の言葉を頭の中で何度も反芻した。
「パンクって何や!? ロックって何や!? 音楽は誰のもんや!?」
彼女がスピーカーの上からアジるように叩き付けた言葉である。
音楽は間違いなく自分自身のためにある。自分自身にとって生きる糧であり、究極の娯楽に他ならない。
パンクとは何か。ロックとは何か。それはありふれた問い掛けなのかもしれないが、その答えは千差万別、まるで禅問答のようである。だが、一度でもロックに刻まれたことのある人間ならば、徹底的に対峙しなければならない永遠の命題であると思う。別に誰かと同じロック観である必要はない。音楽とは数学のように明確な数値の出るものではないのだから。ただ、自分だけの確たる答えは用意をしておくべきだ。さもなければ、後藤に「死ね! アホンダラ!」と罵倒されるのがオチである。
彼らの音楽と向き合う時、我々はパンクとは何か、ロックとは何か、音楽は誰のものなのかを喉元まで突き付けられる。音楽が自分にとって如何に切実なものなのか。あるいは本当に必要なものなのか。本当は消耗品に成り下がっているのではないか。ミドリの音楽は、そんな自分自身を映し出す鏡のような存在なのである。
(text:椎名宗之)



ミドリ live ミドリ live
ミドリ live ミドリ live ミドリ live
ミドリ live ミドリ live

set list
01. うわさのあの子
02. ロマンティック夏モード
03. ゆきこさん
04. 愛のうた
05. 5拍子
06. エゾシカ・ダンス!!
07. ハウリング地獄
08. ドーピング☆ノイズノイズキッス
09. ちはるの恋
10. お猿
11. 獄衣deサンバ
12. あんたは誰や
13. POP
-encore-
14. 新曲


ライブ!!

'08 日比谷野外大音楽堂、土砂降りの中、ギターを使わなかったライブを完全収録(初回紙ジャケット仕様)。



初回仕様

通常仕様

収録曲:お猿/愛って悲しいね/ちはるの恋/ひみつの2人/獄衣deサンバ/あんたは誰や/POP
ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ AICL 1969
¥1,200(tax in)
2008年11月5日(水)発売

★amazonで購入する

Live info.

11月19日(水)仙台 CLUB JUNK BOX
共演:9mm Parabellum Bullet
問:GIP 022-222-9999
SOLD OUT!! thank you!

11月21日(金)青森 Quarter
共演:9mm Parabellum Bullet
問:GIP 022-222-9999

11月22日(土)盛岡 Club Change WAVE
共演:9mm Parabellum Bullet
問:GIP 022-222-9999

11月24日(祝・月)Shibuya O-WEST / Shibuya O-nest / Shibuya O-Crest
Treasuerbox@shibuya(公演会場は未発表)
問:FLIP SIDE 03-3466-1100

ミドリ official website
http://midori072.com/


photo by SHIVA-ERI

posted by Rooftop at 14:00 | バックナンバー