ふたりの傑出したヴォーカリストがその魅力を余すところなく発揮したワンマン・ライヴ
ロックとゲーム&アニメのクロス・オーヴァーを標榜し、日本のみならず世界へと発信し得る良質な音楽を発表していくことをコンセプトとして今年産声を上げた音楽レーベル“GEORIDE”〈ジオライド〉。同レーベルのお披露目を兼ねた発足記念ツアーのファイナル・ライヴが8月16日、17日の両日にわたって新宿ロフトにて行なわれた。初日はいとうかなこ、2日目はワタナベカズヒロという“GEORIDE”を代表する気鋭のシンガー・ソングライターによるワンマン・ライヴである。両者を盛り立てる“ZIZZ BAND”の面子は、磯江俊道(key, prog)、村上正芳(g)、神保伸太郎(b)、佐々木しげそ(ds)という錚々たる凄腕ミュージシャンだ。
いとうかなこは、最新シングル『A Wish For The Stars』のカップリング曲『DD』をオープニングで披露。時折妖艶な身振りを交えながら達者なフランス語の歌詞を聴かせた。『スリル』『パズル』といった定番曲ではアコースティック・ギターを抱え、伸びやかな美声でオーディエンスを自身の世界へといざなう。一際歓声が大きかったのは、ニンテンドーDSゲーム『ひぐらしのなく頃に絆』(第一巻・祟)の主題歌として起用された『追想のディスペア』とそのイメージ・ソングである『突風』。いとう曰く“海シリーズ”の2曲、『Ride』と『星の海より』で季節感を盛り込んだ後はDJ SADOIによるブレイク・タイム。後半はアコースティック編成で『サイン』、『ガラスのくつ』、安全地帯のカヴァー『恋の予感』の3曲をじっくりと聴かせてヴォーカリストとしての力量をまざまざと見せつけた。そして、スペシャル・ゲストとしてワタナベカズヒロを招いてMC。いつかはGEORIDEツアーで北の地に行きたいというワタナベに対し、海好きのいとうは「沖縄へ行きたい! ステージに上がる人は全員水着着用で!」と話して場内を和ませた。ワタナベとのデュエット『When The End』とメンバー紹介を挟み、人気の高い『STILL』、妹のために作ったという『卒業証書』を熱唱。『Rise』以降はバンド編成に戻り、ファンキーな『PARADISE』、荘厳な雰囲気の『モダンローズ』、躍動感に満ちた『Lamento』、海原の如くたゆやかな『Beginning Oath』と一気に聴かせる。本編最後は『追憶の風』で締め、歌の世界観同様に明日への希望を繋ぐポジティヴな空気で場内を満たした。バンド・アンサンブルも素晴らしく、この日一番の名演だったのではないか。アンコールを最新シングルの『A Wish For The Stars』で応え、しっとりと余韻を残して終わるエンディングも粋な演出だったと思う。
ワタナベカズヒロは、疾走感の溢れる曲調ながら巧みなハーモニー・ワークが光る『やがて来る季節』からアクセル全開。ミディアム・テンポの『さめない熱』を情感たっぷりに唄い込んだ後はギターを置き、最新シングルの『Break the Chains』を披露。イントロのラップもワタナベ自身が難なくこなした。エスニックなリズムが耳に残る『Temple of soul』、オーディエンスが腕をかざしワタナベの歌声に応える『翼』と続き、MC。「今日はワンマンなので、ちょっとスペシャルな曲を用意してきました」という紹介の後に披露されたのは『Cold Metal』。ハーモニカの音がやけに新鮮に響く。その後『赤い花』、『深海魚』とファースト・アルバム『ダイヴァー・シティー』からの人気曲が続くが、『深海魚』でハプニングが発生。ドラムの佐々木のミスにより演奏が一時中断してしまったのだが、オーディエンスは大喝采。むしろフロアが温まってライヴにいい流れが生まれた。軽快な『bloom』に続いてプレイされたのは、意外にもドアーズのカヴァー『Break on Through』。イントロでの「みんなを違う世界にいざないます、心を裸にしてよ」という言葉の後に、まるでジム・モリスンが乗り移ったかのような歌声と激しいアクションを存分に魅せた。スパニッシュな匂いのある『ブレンディアーモ』で艶やかなアコースティック・サウンドを轟かせ、スペシャル・ゲストのいとうかなこが登場。前日と同じく『When The End』で息の合ったハーモニーを聴かせ、聴く者を甘美な陶酔感に浸らせた。DJタイムを挟み、『GRIND』、『創痕』、『EXTRIC〜願い示す先へ〜』と一気に畳み掛け、「ZIZZと関わりを持つようになった最初の曲です」と『残光』を噛み締めるように唄い上げた。幻想的で物悲しいバラード『Are One』では伸びやかなビブラートを、一転してアップテンポの『Memento Vivere』では美しいファルセットを巧みに使い分け、傑出したヴォーカリストとしての存在感を遺憾なく発揮。そしてオーディエンスへの感謝を気持ちを名曲『結晶』に込め、本編は終了。アンコールでメンバー紹介を済ませた後、再びいとうをステージに招いて贅沢なオールスター・セッション。『Starlit Faith』はそんな豪華セッションには相応しい楽曲であり、ワタナベといとうのハーモニーはやはり絶品であると痛感した。
このワンマン・ライヴで活動に弾みを付けた両者は、この秋それぞれ新たな試みに挑む。いとうかなこは11月3日(月・祝)に渋谷O-EASTで怒濤の5時間ワンマン・ライヴを決行。1,000人のオーディエンスを前にさらに磨きの掛かったポテンシャルの高いステージを魅せてくれることだろう。一方、ワタナベカズヒロは新宿ネイキッドロフトで“裸のワタナベ、裸のロフト、たった一人のワンマン・ライヴ”と銘打った66名限定のアコースティック・ライヴを3ヶ月連続で敢行(10月25日、11月22日、12月27日)。一切のごまかしが利かないアコースティック・スタイルで自らの原点に立ち返り、いち表現者としての可能性を探る意欲的なイヴェントと言える。今後とも両者の一挙手一投足から目が離せそうにない。
(text:椎名宗之)
いとうかなこ one-man live set list
16th Saturday, August at shinjuku LOFT
M01:DD
M02:スリル
M03:パズル
M04:Desire Blue sky
M05:追想のディスペア
M06:突風
M07:Ride
M08:星の海より
〜DJ time〜
M09:サイン
M10:ガラスのくつ
M11:恋の予感
M12:When The End
M13:STILL
M14:卒業証書
M15:Rise
M16:PARADISE
M17:モダンローズ
M18:Lamento
M19:Beginning Oath
M20:追憶の風
〜encore〜
M21:A Wish For The Stars
ワタナベカズヒロ one-man live set list
17th Sunday, August at shinjuku LOFT
〜Overture(SE)〜
M01:やがて来る季節
M02:さめない熱
M03:Break the Chains
M04:Temple of soul
M05:翼
M06:Cold Metal
M07:赤い花
M08:深海魚
M09:bloom
M10:Break on Through
M11:ブレンディアーモ
M12:When The End
〜DJ time〜
M13:GRIND
M14:創痕
M15:EXTRIC〜願い示す先へ〜
M16:残光
M17:Are One
M18:Memento Vivere
M19:結晶
〜encore〜
M20:Starlit Faith