擦れっ枯らしの音楽不感症に捧ぐ異形の音塊
久方振りに実にLess than TVらしい作品の登場である。あの大傑作ファースト・アルバム『RECORDERS』から4年、nemoが放つ待望のセカンド・アルバム『シンカイシャク55355』がそれだ。得体の知れぬ異形の音塊が渦巻くその音楽性はもとより、ぽたぽた水漏れをしているかの如き虚脱的アンサンブル、感情を示すペンタグラフのバランスが著しく歪な世界観、思わせぶりなネーミング・センスと相反するくだらなさ、聴く者を狂気の淵にまで強制連行する突拍子もないシークレット・トラック、何処か人を喰ったようなキッチュなアートワーク。そのどれもが最高だ。最高すぎる。音の出るオモチャを無我夢中に組み立てている悪童どもの純真さを僕はこのアルバムから嗅ぎ取ってしまう。1枚のアルバムにドキドキするあの感覚をもう一度味わいたければ、この異形の音塊を聴いて心ゆくまで悶絶すれば良い。(interview:椎名宗之)
易々と辿り着けないシークレット・トラック
──全99曲、トータル・タイム76分の超大作が遂に完成しましたね(笑)。
シモヤマリョウ(ds):ははは。あ、76分でした?
ホンマノリアキ(b):ハードによって違うんですよ。75分何秒って出るところもあるし。
シモダイセイ(vo, g):商品になったのは73分なんですよ。サンプルのCD-Rだと曲間の誤差があるのかもしれませんね。
──裏ジャケットと盤には10曲の収録曲しか記されていませんけど、まずこの全89曲に及ぶシークレット・トラック(笑)の話から聞かせて下さい。
シモ:当初は10曲目のケツを凄く長くしてバレないようにしたかったんですけど、もう完全にバレてますよね。それもどうかと思うんですけど。
──最後の「モリカワハラスメント」の後に8分くらいの無音状態が続きますが、これはブッチャーズの『kocorono』の最後みたいなものですか。
シモ:そうですね。狙いはちょっと違ったんですけど。
シモヤマ:単に10曲目とシークレット・トラックの間を埋めただけですよ。ただカウントさえあればいいって言うか。
ホンマ:ただ、最低入れなきゃけない時間っていうのがあるらしくて。で、『kocorono』は1トラック=4秒くらいだったから、それくらいにしとこうかなと。
──その静寂の後に訪れるシンセとヒスノイズの不協和音が30分以上にわたって延々と続きますが、まさに地獄を味わうような時間でしたよ。無理矢理感満載の演奏で、これでやっと終わってくれるかと思えばちっとも終わらないし(笑)。
シモヤマ:そう易々とは辿り着けないようにしたかったんですよ。
シモ:でもあれ、明らかに途中で演奏が切れてますよね? まぁ、それもまた味ってことで。
──あのシークレット・トラックの意図は、やはり嫌がらせですか?(笑)
シモ:そりゃそうですよ(笑)。CDを買ってもらったからにはキッチリと楽しんでもらわないと。
ホンマ:シンセを弾いた俺としては、決して悪意はないんですけど(笑)。ギター・シンセでオルガンの音をずっと弾いていて、やってる本人が30分以上なんてとても弾けるわけもないので、イヤだなイヤだなと思いつつも何とか形にした結果があれなんです。一発録りで、後からちょっと直してる部分もあるんですよ。
シモ:直してるんだ、あれ?(笑) ちょっとメシを食いに行くから、その間にやっといて的なノリだったんですけど。
ホンマ:見えないこだわりがあって(笑)。結構大変だったんですよ、ムダなノイズを入れてみたりとかして。しかも、本編よりも分数が長いしね(笑)。
シモ:今思うと、とんねるずの『成増』っていうアルバムの記憶が根底にあったのかもしれないです。音がもの凄くちっちゃくなってボリュームを上げると、「ボリューム上げてんじゃねぇよッ!」って怒鳴られるっていう(笑)。
──niumunとのスプリットが出て僅か1年でリリースに漕ぎ着けたことを思えば、思いのほか早いリリースだったのでは?
シモ:どうなんですかね。アルバムとしては随分経ちましたけど。4年振りくらいかな。
ホンマ:ホントは去年出る予定でしたからね、Less than TVの15周年に合わせて。
──この4年の間に書き溜めた曲を精選して形にした感じですか。
シモ:そういう曲もあり、急いで書いた曲もあり。今回はシンプルにっていうのが常に頭にありましたね。
──シンプルに人の嫌がる音を出す、と?(笑)
シモ:ははは。まぁ、そんなに深い考えとかはないですよ。この間、とあるライターの方から的確な言葉が出ましたけどね。「インチキくさい」って(笑)。結局、俺が言いたいのはそういうことかなって。
普通の目線で物事が見られるようになった
──『シンカイシャク55355』というタイトルの意味するところは?
シモ:ここ2、3年、個人的にいろんな心境の変化があって。結婚したり子供が産まれたり、そういうのが立て続けに起こったんです。もともとは曲名として考えてたんですけど、3人になって初めてのアルバムだから『シンカイシャク』でもいいかなと。『シンカイシャク』と言っても、ワン・ステージ上に上がったとかじゃなしに、普通の目線で物事が見られるようになったっていうことですね。ひねくれなくなったって言うか。
──こんなひねくれまくったアルバムを作っといてよく言いますよ(笑)。
シモ:いや、俺はもの凄くストレートになったと解釈してるんですよ。
ホンマ:シモ君は結婚して穏やかになった気がするんですよ。良い意味でユルくなった感じもちょっとあるし、エンジニアのマツモッちゃん(松本健一)もそういう感じだし。それが今度のアルバムにいい感じで作用して、俺的にはあの30分以上の独奏に繋がってるんですけど。
──1曲目の「情報公開(DDK)」から10曲目の「モリカワハラスメント」までがまるでひとつの組曲のように思える勢いもありますよね。
シモ:勢いは常に詰め込もうと思ってますね。ただ、そういう音作りをする俺自身がルーズになってきたと言うか、かしこまらなくて済むようになったと言うか。個人的には今までにないくらいにストレートなパンク・ロックだと思ってるんですけどね。
シモヤマ:パンク・ロックかどうかは何とも言えませんけど(笑)。でも、4人でやってた頃から割とシンプルにはなり出してて、3人になってからはよりそれが固まってきた感じはありますね。もちろん、工夫とかひねりとかはちゃんと考えてるんですけど。
──ホンマさんが入ったことによってシンプルさが加速した感はありますか。
シモ:そうですね。そこでガラッと変わったと思いますよ。
ホンマ:俺が最初に「nemoをやりなよ」って言われたのはワタゾウさん(TOXIC PUNK WASTE主宰、EVIL SCHOOL、WHO$HIT)なんですよね。
シモ:へぇ。初めて聞くな、その話。
ホンマ:俺の前にワタゾウさんがnemoに誘われていて、「変拍子とか面倒くさいからマーホンやんなよ」って言われたのがきっかけだったんですよ、実は。俺が入る前はワカちゃんっていう女の子で、その前がスギモリ君で、一番最初がナカノ君。
シモ:最初に組んだのが俺とリョウちゃんなんで、この2人中心で曲作りをするんですけど、いつもベーシストに合わせるんですよ。「俺たちはこういう感じだからついてこいよ」とは言わない。やって来たベーシストを面白がって、「こんなのできる? あ、そういうのできるの!?」みたいな感じなんですよ。だからベースが変わると自ずとガラッと変わるんです。
──今回はホンマさんの奏でる浮遊感のあるシンセが随所で良いアクセントになっていますよね。
シモ:確かに。フックと言うか、所々で印象的な音を出してくれてますね。
シモヤマ:そういうところでも、バンドを前に転がしていく力みたいなものをホンマ君がもたらしてくれたと思います。
──各楽曲に必ず妙な引っかかりがあると言うか、巧妙なトラップを仕掛けているのがnemoサウンドの特徴ですよね。それが凄くクセになるし。
シモ:1曲のうちに2ヶ所くらいそういうのがあればいいと思ってるんですよね。
──たとえば、「VCF×Peak!」の“アー!”“アー!”っていうぶっきらぼうなコーラスとか(笑)。
ホンマ:あれは俺もビックリしましたよ(笑)。
シモヤマ:後からヴォーカルを入れるって言ってて、これに入るのかなと思ったら、“アー!”“アー!”って言い出して(笑)。
シモ:あれはないでしょ? 何となく寂しいなと思って入れたんですけど。
──しかも、あの曲だけ妙に音質がクリアですよね。
シモ:そうですね。あれはほぼ何もいじってないんですよ。
──かと思えば、「マックシェイク」ではnemo流の歌モノと言うべきハーモニーを聴かせてみたり。
シモ:ああいう感じの曲は昔もやったことがあるんですよ。だからガラッと新しいわけでもないんですけど、たまにはこういうのもいいかなと思って。
──「マックシェイク」=夏をイメージした曲なんですか。
シモ:いや、実家に帰るのってせいぜい何年かに1回じゃないですか。その何年かに1回とか、年に1、2回とかを表すものって何かないかな? と思って、あ、マックシェイクだと。マックシェイクって年に飲んでも2回くらいでしょ?
ホンマ:そういうことなんだ? 初めて知った(笑)。
ムダに歳喰ってHCを勘違いするとこうなる
──「エクセリオン」は昔懐かしいファミコンのシューティング・ゲームにインスパイアされた曲ですか。
シモ:ファミコンもありましたっけ? 俺はゲーセンでよくやってたんですよ。中1の時に親の財布から金を盗んじゃゲーセンに入り浸って、いつもやってたのが「エクセリオン」なんです。
──その当時の記憶を辿って出来た曲なんですか。
シモ:結構後ろ向きなんですよね。そう言えば昔、こんなゲームがあったなぁ…って思い出して。そういうのが多いです。
──ギターのリフとドラムの乱れ打ちがグッチャグチャで気持ちいい曲ですけど。
シモヤマ:噛み合ってないところがいいと思うんですよ。
──確かに、かなりズレてますよね(笑)。
シモ:曲の頭ですか? 頭は特に浮遊感がありますよね。あれいいでしょう? 俺はそういうの余り直さないんですよ。
ホンマ:何ヶ所かそういうところがあって、「これで大丈夫?」って訊いても「いや、これいいでしょう?」って(笑)。
シモ:余り直したくないんですよね。演奏が巧そうに見える人が間違ってるのとか好きなんですよ。シー&ケイクのジョン・マッケンタイアはガチッとしてそうに見えて繰り返し間違ってるプレイが結構あって、そういうのが凄く好きなんです。
シモヤマ:まぁ、聴く人がシー&ケイクと俺たちを並べて見てくれるかは怪しいですけどね(笑)。
シモ:まぁね(笑)。とにかくドラムがちゃんと録れてればいいかなと思うんですよね。
ホンマ:俺は何度も録り直しましたけどね。最初から一発でOKだなんて、まず有り得ないと思ってるので(笑)。
シモヤマ:ドラムは今回、アナログのテープを回していたので何度も録り直せなかったんです。アナログとデジタルの両方で録って、それをミックスしたんですよ。
シモ:まぁ、オープン・リールと言っても民生機みたいなものですけどね。
ホンマ:でもレコーディング中に壊れちゃったので、修理代とテープ代がバカにならなかったんですよね(笑)。
シモヤマ:テープの残量に対するプレッシャーがありましたよね。3テイクくらいしか録れないし。
──わざわざアナログ・テープで録ろうと思ったのは?
シモ:去年スプリットを作った時、スタジオの特性上もの凄くデジタルな質感になってしまったので、その反省もあって。
──「scumdirection」はカオス極まりないハードコアですが、他の曲が余りに歪なせいで凄くまともに聴こえるんですよね。単体でも充分振り切れているのに(笑)。
シモヤマ:そう、そういう印象になりますよね。昔、シモさんがライヴで「ムダに歳喰ってハードコアを勘違いするとこうなります」って話してたことがあるんですけど、まさにそういう感じの曲ですよね(笑)。
シモ:そういうことだよ。ブレてないね、俺(笑)。
──アルバムに通底する不穏なトーンは、シモさんの音楽的背景から来るものなんでしょうか。
シモ:自分の中で凄く重要なのは、70年代のNHKのドキュメンタリーで使われていた効果音なんです。あのおどろおどろしい感じが自分の根底にはあって、ああいうのをバンドでやるとこうなるのかなと思ってるんですけどね。ただ、それを強調して2人に伝えてもつまらないだろうし、曲としても成り立たないと思うので、そういうのはただ自分が思ってるだけでいいんですよ。たまに「こういうのあるんだけど」って軽く伝えて、それが2人の出す音と合わさってnemoサウンドとして出てくればいいと思ってるんです。
──そうだ、うっかり訊き忘れそうになりましたが、アルバム・タイトルにある“55355”という意味深な数字は何なんですか。
ホンマ:普通に考えても絶対に判らないと思いますよ。
シモ:シークレット・トラックでオルガンが終わってドラムが入ってきますよね? その拍が5、5、3、5、5っていうだけなんですよ。
ホンマ:最後まで聴かないと見つからない仕掛けなんです。
シモヤマ:トータル・タイムも“55355”に絡ませようと最初は思ってたんですけどね。
シモ:もちろん面倒くさくなってやめました。ホントは『シンカイシャク』だけにしようと思ったんですけど、数字の付いたアルバム・タイトルって何か格好いいじゃないですか?(笑)
──深読みするのがアホらしくなってきました(笑)。じゃあ、「C/C/C」っていうのは…。
シモ:♪チャッ、チャッ、チャッ…っていう拍子ですね。
ホンマ:「情報公開」の“DDK”っていうのも、“デンデケ”っていう仮タイトルから来てますからね(笑)。
シモ:♪デンデケデケ、デンデケデケ…(笑)。大抵のことは裏切りますよ。インチキですからね(笑)。
2nd album
シンカイシャク55355
01. 情報公開(DDK)
02. C/C/C
03. エクセリオン
04. 旧解釈
05. 新解釈
06. VCF×Peak!
07. scumdirection
08. マックシェイク
09. Generator
10. モリカワハラスメント
Less Than TV FICL-1027 (ch-112)
2,625yen (tax in)
IN STORES NOW
Live info.
9月13日(土)山形:七日町シネマ旭跡(DO IT! 2008)
10月3日(金)東京:SHIBUYA O-nest
10月18日(土)大阪:大正Free People
10月19日(日)愛知:名古屋今池HUCK FINN
11月14日(金)東京:小岩eM SEVEN
11月29日(土)北海道:札幌HALL SPIRITUAL LOUNGE
11月30日(日)北海道:旭川CASINO DRIVE
nemo official website
http://sound.jp/nemooo/