3人の個性が重なって生み出された絶妙なコントラスト
2007年にインディーギターロック界に突如現れたLOWNAME。そして2008年、更なるバンドの進化と可能性を獲得する上でバンド名を「カフカ」に変えて再スタートした。メンバーは替わらずに、カネココウタ(Vo&G)、ヨシミナオヤ(Ba&Cho)、フジイダイシ(Dr&Cho)の3人。ここに至るまで紆余曲折を経てようやくリリースされることになったニューアルバム『Memento.』。カフカになり心機一転できた結果、音楽に対する気持ちが変わったり、純粋に向き合えるようになったりと、より良い方向へと向かっている様子は、この作品を聴いて充分に感じることができる。まさにファーストにして最高傑作になったと言えよう。彼らの旅は今始まったばかりだ。(interview:やまだともこ)
LOWNAMEからカフカへ
──つい最近、LOWNAMEからカフカにバンド名を変えたんですね。なぜ、バンド名を変えようと思ったんですか?
カネコ:LOWNAMEでCDを1枚リリースできてレコ発をやったんですけど、そこでバンドを結成した当時にやりたかったことが達成できたんです。CDを出せるとは思っていなかったから、達成感と同時に虚脱感があって目標がなくなっちゃったんですよ。だったらバンドを辞めようと、自分の思っていることとかみんながどう思っているかを一度話したんですけど、音楽に対してもっとちゃんとやっていきたいっていう気持ちは2人からも感じて、やっぱりこの3人でずっとやっていきたいって思ったんです。それで、自分の中で1回変化をもたらすという意味も込めて名前を変えたんです。
──リセットしたくなったと。
カネコ:ただ、LOWNAMEの時に積み上げてきたものは大切にしているので、そこは引き継いで新しくやろうかっていう心機一転です。今でもLOWNAMEの曲をやってはいるんですけど、意味合いは変わりましたよ。前は伝えようとか誰かのために歌いたいという気持ちはなくて、単純に曲を作ってCDが出せればいいと思っていたんですけど、そうなるとこれは何のためにやっているんだろうって戸惑ったりもするんですよね。でも、最近は演奏する時の気持ちが全然変わったし、曲に対する気持ちも変わりました。
──自己満足の世界から、外に向かえるようになったと。
カネコ:自分の気持ちが変わってくれたんです。だから、自然にバンド名が変わることになったし、曲の雰囲気も、全部が良い感じに向かいましたね。
──バンド名の“カフカ”はフランツ・カフカからですか?
カネコ:そうです。ちょうどいいことに、フランツ・カフカの有名な本の中に『変身』っていうのがあって、それもうまい具合にかかってくれてるかな。LOWNAMEが死んで生まれ変わったのがカフカになったわけじゃなくて、それだったら1回解散してやり直すべきかもしれないけれど、LOWNAMEの時に培ったものは大切にしたい。LOWNAMEがおたまじゃくしだったらカフカはカエルになって自然に変身した感じです。そういうことでもいい具合に繋がりました。
──LOWNAMEの時にもCDはリリースしていますが、今回リリースする『Memento.』はカフカの第1弾作品ということで新たな気持ちでできました?
カネコ:前回はミニアルバムで今回は9曲。達成感はありましたよ。
ヨシミ:やりきったよね。
カネコ:最後に終わった時はみんな疲れ果てていたもんね(笑)。前はわけもわからず、されるがままで何やってるかわからないというところもあったんですけど、今回はいろんなことに挑戦できたというか、ちょっと余裕が持てましたね。
──挑戦できたというと?
カネコ:まず、いろんな音を入れてみました。最後の曲『home』はピアノを弾いているんですけど、ピアノで初めて曲を作ってみたんです。今までの気持ちを新たにできたから、そういうことができたんだと思います。何も規制がないし、純粋にこの曲には何が合うかなって考えるようになりました。
魔法がかけられた曲
──エンジニアさんに田中是行さんを迎えて共同制作をされてますが、アドバイスを受けたりしましたか?
カネコ:田中さんは個性的というか、独特というか、我が強いというか(笑)。僕も我が強くて、相手のことをなかなか信用しないから、こうしたほうがいいと言われても自分で理解しないとできないんですけど、話しているうちに自分のことをわかってくれていると思い始めたんです。その人がこういうふうにしたいんだったらこうしようって自然に受け入れられました。
──相性が良かったんですね。
カネコ:でも、最初はとまどいましたよ。ケンカしそうになったりもしたし。田中さんも“やってらんねえ!”ぐらいになって、お互い真剣だからそうなってしまったんですよね。『let's get lost』は田中さんと対立してる時に歌ったんですけど、すごいイライラしている歌い方をしているんです。でも、詞の内容も含めて、その歌い方がこの曲には合っているからこれで進めようって。その時の気持ちをそのまま入れるって生々しいなと思いましたね。今までは自分たちの下手なところを隠そうと必死に重ねたりしようとしていたんですけど、それを覆されたというか、アナログな録り方とか加工されてないものの良さを田中さんに教えてもらいました。
ヨシミ:この曲をやってる時、オレ放棄しそうになった(笑)。バンドの雰囲気がすごく暗かったですからね。
カネコ:でも1曲1曲に思い出があるって、何も思い出せないということよりはいいよね。
──紆余曲折が感じられる作品ですね。逆にワクワクしたことってどんなことでした?
カネコ:田中さんのミックスです。『理科室のカエルとハツカネズミに祈りを捧げる』は、ミックスで“この曲パンクにしていい? ”って言われて、全員“エー!!”と思いながらも“いいっすよ”って言ったらすごいかっこよくなって返ってきました。他の曲は全部話し合って進めたんですけど、唯一この曲は完全お任せです。
──もともとはどんな曲だったんですか?
カネコ:もともとは、なんか…魔法をかける前のものだよね。
──…もっとうまいこと言うのかと思ってたんですけど(笑)。
ヨシミ:(笑)説明しづらいんですよ。でも、こうして魔法がかかったわけで…。
──楽曲自体魔法がかけられてるような、気になるタイトルが付けられている曲ですが、どうやってこの言葉が浮かんできたんですか?
カネコ:こういう曲って今までなかったんです。勢いがある曲っていうのは、バンドのモチベーションがちょうどその時期に合ってないと、しっくり来なくてボツになっちゃうことが多いんですけど、これはちょうど作った時にみんなストレスが溜まっていて、暴れられたし作っていて楽しかったです。もっと練らないとダメだとか、そんなの曲じゃないってだいたい考えちゃうんですけど、この曲はそれがなかったというか、今ここに入ってることが自分の中で新しいです。
──ストレスが溜まっていた時期だと言われてましたけど、みなさんにとってストレスの解消法は音楽をやることになるんですか?
カネコ:個人的にはストレスはあんまり溜まらないんですが、発散するにはゲームやったり本を読んだり、音楽聴いたり、それがストレス解消です。でも、ライブではたまにものすごいことになったりしてますね。お互い「わぁ、この人ヤバイな」って、そこで認識することがあります(笑)。解放するというところでは、ライブが一番多いです。
生臭い匂いを感じる作品
──楽曲を全体に聴いているとお伽噺のような童話のような感じだと思ったんですけど、けっこう本は読まれてます?
カネコ:お伽話も読むし、童話も何でも読みます。
──自分が書くものもインスパイアされている部分はありますか?
カネコ:ありますよ。フランツ・カフカはずっと好きで読んでいて、最近は日本人で言うと安部公房とか中上健次とか読んでます。読んでいて世界を想像させるものとか、匂いがキツイもの、本から匂いがしてくるものが好きで、それを音楽でも表現できるのかなって考えています。詞を読んで世界を想像させたり、生臭い匂いを感じてもらいたいんです。
──詞を読んで世界が想像できたんですが、『理科室〜』は想像が難しかったです。
カネコ:それは青春時代が健全だったってことですね。それはいい人生だと思いますよ(笑)。
──みなさんはどんな青春時代を送っていたんですか?
カネコ:ダイシと同じ高校だったんですけど、放課後に音楽室でギターを弾いたり、録音機材を持ち込んで夜まで録ってみたり、それを校内放送で流してみたり(笑)。
──外で走り回っている感じよりは室内にいそうですね。
カネコ:それは変わってないです(笑)。ナオヤはわりと外に出たがりますけどね。
ヨシミ:元気はあるんですけど体力がない(笑)。走ったら息が戻らない。
──『1985』というタイトルが付けられた曲がありますが、これが生まれ年になるんですよね? もうちょっと元気があってもいいんじゃないですか(笑)?
ヨシミ:オレ、1個下です。
──じゃあ、なおさらですよ(笑)。
ヨシミ:元気はありますよ、体力はないけど。
──青春時代に鬱屈したものが、今お伽話に姿を変えているんですか?
カネコ:いや、鬱屈していたわけではなくて、暗い青春時代を送っていたわけでもないんです。ただ、騒いでいながらもすごく冷静な自分がいたりはしましたよ。そこで感じた教室の匂いとか、グラウンドの土の匂いとか、太陽の匂いとか空の青さだったりとかって生々しいというか、血の匂いがするんです。人それぞれ感性が違うからみんな同じわけではないと思いますけど、個人的には血の匂いがします。動物を解剖したりするのを見て、嫌だなって思うこともそうですし、そういう気持ちを忘れられない。それを形にしたんです。空が青いんじゃなくて、空が青すぎる。コントラストがすごく強いんです。光と陰の対比というか、太陽がすごく明るいが故にその周りが暗く映る。道を歩いていても目の前に咲いている花が綺麗に見えた時は、自分がすごく暗い時だと思うんです。でも、それは悪いことじゃなくて、それが綺麗だと思えるのは作品を作る原動力になりますからね。
──五感で感じたものが歌詞に反映されて、常に連鎖している状態なんですね。
カネコ:曲自体が僕の人生だと思ってます。年をとった時に、これを聴いたらこの時こういう時代だったんだなって、ちゃんと確認できると思います。
──自分たちの軌跡を残していると。
カネコ:そういうことです。
──ところで、今回カフカとしては初のCDが出来上がってみて率直な感想はどうですか?
ヨシミ:前回に比べると大変でしたけど、終わってみればすごく意味があったし、全員が精神的に成長できましたよ。譲り合うっていう部分では、初めてカネコが自分の意見を譲ったのには驚きました。
フジイ:前に比べて叩き方を変えたり、全体のバスドラの音を変えたり、田中さんに言われたのもありますけど、叩いてみたらそっちのほうが全然良かったし、楽しくできましたね。
──3人が良いものを作ろうって同じ意識になってきたのかもしれないですね。
ヨシミ:う〜ん。そうかもしれないですね。
カネコ:一体感とかは大事にできるようになりました。その時の勢いとか、今まで一緒にやってきたからこそ出せる部分はありますね。この3人がやっているんだからいい歌になるし、いい曲になる。
──歌と言えば、ボーカルが前に出ている作り方をされてますよね。
カネコ:はい。今までは“いつオレがボーカルになった?”っていう気持ちだったんです。本当はギターなんだと思っていたし、いいボーカルがいたら即変わってほしいっていう気持ちだったんですけど、今回は1度考えることができる期間があったおかげで、ボーカルとしてやっていこうと思ったし、それは大きいひとつの変化ですね。
──歌を聴かせる決意が出来たということですか?
カネコ:歌っていて楽しいと思えたことがあって、それは大きかったですよ。僕らにとって自分たちの記念碑(Memento.)になりましたし、踏み出すことができた作品ですね。このアルバムって“家出”だと思うんです。1曲目の『心拍数』で自分に“さよなら”をして、外に出てみる。それで最後の『home』で、家に帰ってきた時に景色が違っていたらいいなと思うんですよ。聴いた人が小さなことでも、聴く前と聴いた後で何か変わってくれていたらって思います。あとは、初めてのツアーもありますし、CDを聴いてライブに来て貰えたら嬉しいです。
Memento.
ZARCD-1005 / 2,100yen(tax in)
arights / Zealot
8.06 IN STORES
Live info.
8/17(日)渋谷club乙-kinoto-
“Memento.Release Party !! “
〜子供たちの白い目の上で〜
“カフカMemento.TOUR 2008”START!!
10月より、全国ツアー開始!!
近日詳細発表!!
カフカ official website
http://www.ka-fu-ka.net/