ギター バックナンバー

ha-gakure('08年7月号)


構想期間約3年、制作期間半年、ようやく完成したニューミニアルバム『世界 鍵 FeedBack』


関西のアンダーグラウンドシーンから新たに誕生したバンド、ha-gakure。鉄壁のグルーヴを誇るリズム隊に、エフェクターやボウイング奏法を駆使した色彩溢れるギター。そして現職の僧侶でもあるVo.高山の生と死を中核に据えたリリック。初めてこの作品を聴いた時は驚きで声が出なかった。春のそよ風のようなものばかりを“心地よい”ものだと信じてきたが、岩壁の前で立ちはだかるような力強さが漲るサウンドというのか、低音が冴えまくり、心臓に響いてくるボーカルも全て、とにかくとても心地よいと感じた。一瞬にして異空間に誘い込まれたようであった。新メンバーに宮一敬(ex.YOGURT-pooh)の加入もあり、再び息を吹き返したha-gakure。ここから彼らの快進撃が始まることだろう。(interview:やまだともこ)

メンバー:MC 高山泰秀 / Gu 菅波光晴 / Ba 宮一敬 / Dr 影山直之


バンドが生と死を経験した2年間

──『世界 鍵 FeedBack』は前作の『庭』からは2年振りの作品となりますが、この2年間はバンドにとってどんな2年間だったんですか?

Y(高山ヤス):現在のベース宮くんがメンバーになったのは1年前。その前の1年は会社員だった前任のベース以倉(イクラ)が転勤で東京に行ってしまい遠距離バンドで、その期間はバンドとして仮死状態だったんです。それでも何とか彼と一緒にと思っていたのですが、結局、彼の方から迷惑掛けたくないという申し出を受けて宮くんに出会います。停滞していた1年の間、形にならないトラックとリリックをストック出来たことを思うと決して無駄ではなく、むしろ非常に重要な期間だったと思います。お陰で宮くんに出会ってすぐに加速できましたから。

菅波:あっという間でしたよ。通常、メンバーが変わるとバンドを立て直すのに少なくとも1年は消費するだろう覚悟をしましたが、自分もサポートから正式メンバーになり、宮さんの加入によって全員がバンドに向き合える密度の濃い2年でした。ライブ本数も劇的に増え、一気に加速しつつ今作の制作まで走り続けた感じです。

──宮さんがベーシストとして加入して早1年が経ちましたが、宮さんがバンドに及ぼした最大の効果はどんな部分ですか? また、ライヴはどう変わりましたか?

Y:実はYOGURT-poohというバンドを知らなかったんです。でも、彼が京都でスタジオをやってるというのは知っていたので彼なら良いベーシストを紹介してくれるかもしれないと思って電話したら、「僕がやる」と言うてくれた所から現在に至ります。宮くんがバンドに及ぼした最大の効果は、メジャーでの音楽活動を通して培った経験と、意識の高さですね。彼は自分でレーベルもやっているので、展開の工夫など音楽以外のことでも随分助けられてます。彼に出会えて目標を共有することの重要性を教えられました。そのことによってライブの出音も明らかに変わったように実感しています。

菅波:ha-gakureの音楽はトラックの音源と生演奏のバランスをとても慎重に考えて曲作りしますが、宮さんの加入によって生演奏の側が非常に肉付きが良くなって、よりバンド感が強くなった気がします。それはもちろんライブにも影響されていて、ロックしてますよ(笑)。

──宮さんはこれまでとは音楽性も違うし、ha-gakureでは初のレコーディングとなりますが、苦労した点等ありますか?

宮:楽曲に関しては、今までレコーディングをしたどのバンドよりも作るのに時間を割きましたよ。最初に録った曲は昨年の11月なんですが、やり残したという気持ちは全く無くて影山君という最高のドラマーと最高のコンビネーションが築けたというところもにも因ります。録り音に関しては、ha-gakureではいかに存在感のある低音が出せるのかというところが課題なんですが、自分のスタジオ(muscistudio hanamauii)で、エンジニアは一緒に働いている小泉さん(ママスタジヲ)だったので、非常に楽な気持ちでレコーディングには臨めました。

──曲を作るにあたり一番気にかけていることはどんなことですか? またアレンジをしていくにあたり、気にかけているのはどんなところですか?

Y:曲に関しては、リリックの世界観の共有という所に重きを置いてます。アレンジに於いて一番気に掛けている所は、言葉の落ちどころ(フック)になる部分に余白はあるかどうか、ということに神経を使ってアレンジを加えています。

宮:とにかく言葉が届くように。言葉の世界観を引き出すためのアレンジというのが、全員の共通した意識です。たとえいいフレーズやフィルインがあったとしても、言葉を邪魔するようなものであればそれは却下していきます。べーシストとしては、やっさん(高山)の持ってくる楽曲はHIPHOPの流れを汲んでいるものなので、“間”を意識して、弾いていない時もリズムを感じさせることができるように、影山君と渾然一体となってグルーブを作り上げてく、という感じですかね〜。

菅波:まず“言葉ありき”で、そこをしっかり押さえつつ音楽的にもただのオケにならないよう、言葉を後押しできる音、歌詞からくる風景、情景、イメージの共有、共感を大事にしています。

──楽曲の持つ情感を増幅させるためのエフェクト処理は本作でも非常に効果的だと思いますが、このプログラミングは高山さんに一任されているんですか。

Y:そうですね。ベーシックは僕が作って持って行きます。その後、バンドサウンドとの兼ね合いを考えながら議論を重ね、足したり、引いたりします。

受け入れ、分かち合う

──『煙突エレジー』や『キミドリの教室』はとても映像喚起力の強いリリックですが、歌詞は何度も推敲されるんですか。

Y:はい。レコーディング直前まで推敲し続けます。或るフレーズが見つからなくて1年以上止まってる歌詞もあったりします。

──こういった詞は、どんな時に書かれるのですか?

Y:描きたいテーマははっきりあるので常にアンテナを張った状態にいます。それに反応する場面や、風景、人に出会った瞬間から書き始めます。たとえば、猫を撮りたいと思っているカメラマンが常に猫を探し、シャッターに指を置いてる状態に近いかもしれませんね。

──1曲1曲が生み出されるのに、とても時間がかかってそうなイメージを持ちましたが、『世界 鍵 FeedBack』全体の制作にはどのぐらいの時間がかかりましたか?

Y:バンド活動が殆ど停止していた時に書き溜めた曲が元になってるので、構想には3年掛かっています。制作自体は新メンバーの音源を1日でも早く完成させたいという気持ちが強かったので、半年でマスタリングにまで漕ぎ着けました。

──『キミドリの教室』はリードトラックとなっていますが、この曲をアルバムの最後に並べたのはどんな意図があるのですか?

Y:『世界 鍵 FeedBack』のタイトルと関係してるんですが、一番最後にリードトラックの『キミドリの教室』を置くことによって、リピートした時に今度は1曲目が鳴り始めます。最後から最初へひたすらFeedBackしていくということです。アルバムを通して時間の流れも同時に感じてもらえたらと思います。

──なるほど。ところで、高山さんの独特なMCは念仏からの影響も強いですか。

Y:大きいです(笑)。読経の唄い回しがRaggamuffin辺りのマイクパフォーマンスに似てるなと思っていて、一時期そういう唄い回しに凝った時もありました。その影響は今も多少あると思います。

──では、仏の世界と音楽世界の共通点はどんなところだと考えていますか?

Y:仏教と音楽の関係を意識してha-gakureで表現したことはないのですが、音楽の持つ寛容さを考えると「受け入れ、分かち合う」という土壌の豊かさでは共通しているように思います。

──日々生と死と向かい合っている高山さんにとって、音楽で表現する意味や自分の言葉を発していくことの意味はどういったものだと考えていますか?

Y:確かに人よりも多く、そういう場面と対峙する機会が多いのですが、僕が音楽で伝えられることは僅かで、それを唄に反映させることはおこがましくて出来ませんよ。音楽は、僕自身が抱える喪失感や倦怠感から脱却する一つの手段であって、それは、もしかしたらリハビリに近いのかもしれません。ただ、みんな失いながら現在を過ごしている訳であって、そういう所で共感できる可能性を音楽は持っていると思うんです。

──では、“世界の鍵を開け放つ”手段として、音楽はどれだけ有効だと思いますか。

Y:今、大阪では西成の釜ヶ崎周辺で1992年10月の第23次暴動以来の、大規模な暴動が起こっています(6/18現在)。日本で今現在起こっている唯一の暴動が僕の下宿アパートのすぐ近くなんですよ。機動隊とドヤ街の労働者や支援者が投石や放水を繰り返していて、違法な派遣雇用に対する抗議が発端なのですが、大阪市とドヤ街のおっちゃんらの間に言葉はあったのだろうか? 同じ日本人やけど、通じ合う言葉を持っていたのだろうか。同じような事が家庭や、教室の中、そして僕自身の生活の中にも点在してて、「音楽は有効か」という問いを前にして正直、絶望的な気持になります。だけど、だからこそ、人間は唄い奏でるのかとも思います。世界に対して音楽が有効かどうかわかりません、だけど無力ではないです。

流れを止めることなく活動を続ける

──サウンドの力強さとボーカルの力強さ、言葉の強さはha-gakureを語る上ではずせないと思いますが、みなさんが思うha-gakureの魅力とはどんなところですか?

菅波:歌詞や楽曲から聴いた人が各々自由にイメージを膨らませる事ができる音楽ではないか、と。メンバーである僕自身がそうですし、誰もが持ってる胸の奥底あたりが共鳴できたら嬉しいです。

Y:僕は半端ない仲の良さですかね。喧嘩も多いですが(笑)、互いの事情や志を共有できる唯一無為の仲間です。そういうのって音に出るって信じてます。

宮:メンバー全員、曲作りの時は全く妥協せずに言い合います。あと、3人は正直者で真面目だけどどこか間抜けなところもあって、そんな人間味のあふれる人たちです。僕らは全部さらけ出してぶつかっていくので、ライブハウスで会ったら気軽に声掛けて欲しいですね。

──ところで、菅波さんのボウイング奏法は、やはりジミー・ペイジからの影響ですか。

菅波:たまに言われますが、ジミーペイジが弓を使ってる等は全く知らなかったんですよ。ha-gakureの前に在籍してたバンドで元々メンバーにバイオリンがいたバンドだったんですが、メンバーが脱退してどうしても弦の音が必要だったので代わりにギターとして僕が加入したんです。あれこれ考えるうちにギターを弓で弾いてましたね。ただどうしても飛び道具的に見られるのは嫌だったので、しっかり奏法として成り立つまでの努力はしましたよ。エフェクターを多様してSE的にとか、ノイズだったりで使うのでは無く、あくまでギターという楽器で、弦の要素、音色を奏でるという意識でやってます。

──マスタリングエンジニアにアラン・ドーチェスさんを迎え、元々の楽曲に比べると音質等はどんな化学変化を起こしましたか?

宮: もともと納得のいく録り音で録れたと思っていたのですが、アメリカから戻ってきてびっくりしましたよ。USハードコアなざらざらした低音がどしーっと来ましたから。

Y:アランにお願いしたお陰で音に深さと質感が生まれました。その違いは一目瞭然で、最初に聴いた時の感動は今でも忘れません。みんなで笑いましたよ、嬉しくて。器の中の魚が暴れて、今にも飛び出しそうだけど、決してそうはならない感じを求めていたのでアランにお願いして本当に良かったです。

菅波:魔法が掛かりましたね。音の魔法が。

──音の魔法って良い表現ですね。ジャケットは水墨画家の高橋良さんによるものですが、この絵は本作に収められた楽曲を高橋さんが聴いて描かれたものですか。

Y:そうです。僕らが大好きなアーティストであり、大切な友人です。この絵を良く見ると、煙突や、鳥、人々の暮らしなど、本作に出て来る様々な景色が詰まっています。それを遠くから見ると地球のように見えて来るんですす。更に、ジャケットの表の絵は小さいですが、ケースを開けてCDを取ると、その盤面裏にジャケットの絵が、そこには大きく描かれています。そこにもミクロからマクロという変化と時間の経過というもの感じて欲しかったんです。

──最後にこの作品をリリース以降、バンドはどんな方向に向かっていきたいと考えていますか?

Y:これまで関西に特化した活動でしたが、これを機にどんどん新しい世界へ飛び込んで行こうと思っています。すでに次回作へ向けて曲作りも始めていますので、この流れを止めることなく活動していきたいと思っています。

宮:とにかく色々な人に聴いてもらいたい観てもらいたいという気持ちが強いですね。東京や地方にもこれから頻繁に行くことになると思いますし、今まで僕らの音楽を聴いてもらう機会が無かった人の前で演奏することが、僕らの音楽をもっと高めてくれると思っています。僕自身がそうであるように、誰もが抱えている光と影、ポジティブとネガティブ、出会いと別れ、生と死、そういった事柄をha-gakureの音楽を通して見つめてもらうことがあれば、凄く嬉しいです。




世界 鍵 FeedBack

PNK0806-070 / 1,680yen(tax in)
IN STORES NOW

★amazonで購入する

Live info.

7.19(sat)京都METRO
7.21(mon)福岡decadent deluxe

Shining April Records & hanamauii records presents
[Shining Sound System〜ha-gakure[世界 鍵 FeedBack]発売記念〜]

vol.34 8.18(mon)名古屋得三
vol.35 8.22(fri)下北沢SHELTER
vol.36 8.30(sat)十三FANDANGO

ha-gakure Official Site
http://www.ha-gakure.com/

ha-gakure My space
http://www.myspace.com/hagakurehomepage

posted by Rooftop at 11:20 | バックナンバー