ギター バックナンバー

enie meenie('08年7月号)


珠玉のメロディが織り成す“人生のファンタジー”


エニ・ミニーから届けられた新たな作品集『Fantasy Of Life』は、徹頭徹尾高い純度のポップに彩られた掛け値無しの傑作である。冒頭のタイトル・トラックでバンド名の由来となる数え歌が無邪気に唄われた後に聴こえる、胸躍るピアノの音色。これが本作の重要なポイントだ。全体を通じてピアノの存在感が増したことで彼らの浮遊感漂うドリーミー・ポップはより豊かな色彩を放ち、タイトに引き締まった躍動的なプレイと溶け合って得も言われぬ幻想の世界へと聴く者を導く。そして“子供のとある無邪気な一日”をイメージして構成されたという本作に収められた全11曲の楽曲は、エヴァーグリーンなポップ・ミュージックが我々の人生をとてつもなく豊かにしてくれることを教えてくれる。そうした豊饒な音楽を味わい尽くす贅沢な時間こそが『Fantasy Of Life』、すなわち“人生のファンタジー”なのだろう。ラヴィン・スプーンフルに「魔法を信じるかい?」という名曲があるが、これだけ無条件に夢心地にさせてくれるエニ・ミニーのポップ・ソングを聴く限り、僕は音楽の魔法を純粋に信じていたいと思うのだ。(interview:椎名宗之)


60年代の音楽はポップの純度が違う

──前作『stars』は随分と“待たされ感”が強かったんですが、今作は1年3ヶ月振りという予想以上に早いリリースですね。

佐々木 稔(ds. cho):そうですね。本来はゆっくりゆっくり進んでいくバンドなのに(笑)。

落井克仁(vo, g):曲が出来たらアルバムを出すっていうスタンスは変わらなくて、今回もそうなんです。曲が8曲ほど目処としてあったので、最初はミニ・アルバムを作ろうと考えていたんですけど、3月くらいにプリプロを録って手応えを感じたんですね。あと3、4曲足せばフル・アルバムになるし、さらに曲が出来そうな予感もあったし、モチベーションも下がっていたわけじゃないからやっちまおう、と。それで急遽フル・アルバムで行くことに決めたんですよ。

──そのお陰で、せっかくのゴールデン・ウィークを投げ打って制作に没頭する羽目になったわけですね(笑)。

佐々木:僕はもうひとつのバンド(16reasons)のツアーが制作とちょうど被って大変だったんですよ。ゴールデン・ウィークにも掛かってたから、制作の後半は参加できなかったんです。前半にドラムを録り切って、ミックスでちょこちょこ抜けたりして。

落井:僕が曲作りで悩んでた時は、海外へバカンスに行ってくれたりしてね(笑)。

──今回は一番大変な時期に佐々木さんが見事に穴を開けた、と(笑)。

落井:ドラムは録りが一番早いから、まず最初に音を確定しなきゃいけないっていうのに(笑)。まぁ、そのぶん僕が頑張ってますから(笑)。煮詰まると大変なことになるんですけど、締切が決まれば何とかそれに間に合わせられるんですね。

佐々木:でも、結構難航したよね。今回はプリプロを録って時間的にも余裕を持たせたんだけど。

落井:プリプロを今まで録ったことがなかったんですよね。でも、みんなが旅行に行くとか勝手なことを言ってるので(笑)、僕が一人でスタジオを予約して、アルバムの構想をひたすら練っていたんですよ。

──ああ、だから「Sleep」のように落井さんの歌とピアノだけの曲もあるわけですね。

落井:「Sleep」は本番の録音の途中で初めてピアノと合わせた曲ですね。頭の中に構想はずっとあったんですけど、形になったのは録音しながら並行してですね。

──本作の大きな特徴はやはり、ピアノ・サウンドの大胆な導入という一言に尽きますよね。これにはどんな意図が?

落井:最近、60年代のマージービート・サウンドやソフト・ロックを好んで聴いていて、その影響もありますね。ポップで大好きなんです。ただのポップじゃないんですよ、ゴールデン・ポップなんです(笑)。ポップの純度が違うんですよ。

──具体的なバンドで言うとどの辺ですか。スモール・サークル・オブ・フレンズとかアソシエイションとか?

落井:そういうソフト・ロックの王道も好きだし、エジソン・ライトハウスみたいなバブルガム・ミュージック、ちょっと遡ってホリーズとかその周辺のイギリスのバンドとかがざっくりと好きなんです。あと、バート・バカラックとかね。そういう音楽は結構ピアノが入ってるじゃないですか? 今回はそういうちょっと懐かしい感じのサウンドにしたかったんですよ。

佐々木:えーと、今挙がった名前がさっぱり判りません(笑)。

──(笑)そういった音楽を知らない他のメンバーに曲のニュアンスをどう伝えるんですか。

落井:そういうのは僕だけが理解していればいいと思ってるんですよ。ニュアンスをみんなに伝えすぎると、バンドの音が変わってしまうので。演奏者の出す音は変わらないけど、曲作りの面で僕がアプローチを変えてるわけです。それで結果的に懐かしい感じの曲が従来のエニ・ミニーの音として形になるという。だから、意図して「これ聴いてみてよ」みたいなことはメンバーには言わないんです。

ジョン・レノンのデモを手本にした「Real Love」

──ある意味で本作のキーパーソンと言えるキーボードの河村(亮)さんは、落井さんが挙げたような音楽はお好きなんですか。

落井:全然。ただ、河村さんはこのバンドで一番音楽に対する造詣が深いんですよ。だから僕の伝えることもちゃんと理解してくれる。他のメンバーは全く理解してくれませんけど(笑)。

佐々木:スタジオにいると、“この人たち何を話してるんだろう!?”っていつも思いますから(笑)。ただ、判らないからこそ想像を膨らませる部分はありますよね。余り聴いたことのない展開になると素直に面白がれるし。まぁ、必死に付いていってるだけですけど(笑)。

落井:展開的なものは、僕が大学の頃に聴いていたポスト・ロックっぽいのも好きだし、ソフト・ロックっぽいどんどん外していくポップな感じも好きだし、そういうのが合わさった感じなんですよね。

──冒頭の弾けるようなポップ・チューン「Fantasy Of Life」にはそういった“どんどん外していく”展開が顕著ですね。

落井:あれは同主調転調と言って、メジャーとマイナーが途中で変わるんですよ。60年代のポップスによくあるんですけど、そういうのを一度バンドでやってみたかったんです。

──ベースの躍動感に溢れたパワーポップ・ナンバー「Too Late Phone Call」の突然急降下する終わり方も、どことなく60年代のポップスからの影響が窺えますけど。

落井:あの曲の元になるものは前作の段階で録ってあったんですよ。ただ、アルバムの色に合わなくて敢えて外したんです。それをちょっとアレンジして今回のアルバムに入れてみたんですよね。あの終わり方は僕の癖と言うか、最後に必ず何かやらかしてしまうんですよ(笑)。

──そういう意外性のある展開然り、落井さんの作風は無駄なリフレインをしないのが大きな特徴ですよね。

落井:そうなんですよ、無駄なリフレインが嫌いなんです。僕が好きなポップ・ソングは2分50秒くらいで、“あの頭のメロディは何だったんだ!?”っていう転調の激しい曲が好きなんですよ。特にソフト・ロックにはそういう狙ってる曲が多いですね。ビートルズ辺りの影響を受けながらも、次々と外していこうっていう確信犯的なところがある。要するに彼らはポップ職人なんですよ。そういうのにちょっと憧れてますね。まぁ、そういうポップ職人は日の目を見ないことが多いんですけど(笑)。

──「Flight To There」は、性急な8ビートが目覚まし時計の音を境にして跳ねたピアノを活かした陽気な曲調に変わりますね。ああいう部分にも落井さんの志向性が表れていますよね。

落井:メロディの流れと言うか、音の運びは一緒なんですけどね。あの曲は8ビートの先をどうするか、結構悩んだんですよ。8ビートのメロディから派生した後半のメロディはあったんですけど、繋げるにはテンポも違うし、どうしようかなと。でも、クイーンを聴いてる時に“これだ”と。ああいう跳ねたピアノのリズムは古くさいけど、嫌いじゃないなと思って。だからこの曲の仮タイトルは「クイーン」だったんです(笑)。初期クイーンのイメージですね。アルバムで言えば『クイーンII』ですよ(笑)。あと、あの目覚ましの音、実際は発車ベルを意識したんですけど、あれはビートルズの「A Day In The Life」の効果音からヒントを得ています。

──ビートルズと言えば、本作には「Real Love」のカヴァーが収録されていますが、ちょっと意外な選曲ですよね。解散から四半世紀が経過して発表された“新曲”として話題になった曲ですが。

落井:やっぱり、選曲も外したい欲求があるんですね(笑)。メロディももちろん好きなんですけど、最初のマイナーからいきなり唄い出しと共にメジャーになる展開が凄く好きなんですよ。まぁ、僕が好きなのは『THE BEATLES ANTHOLOGY』ヴァージョンじゃなくてジョン・レノンのデモテープ・ヴァージョンのほうなんですけどね。あのピアノのソロを聴いて、アレンジをいろいろと考えたんです。ちなみに、お手本にしたのは“テイク4”なんですが(笑)。

──全体的にピアノがフィーチュアされているので、ギターのカッティングが前面に出た「Play The Hero」みたいな曲は逆に新鮮ですね。従来のエニ・ミニーのファンに受け容れられやすい要素もあって。

落井:ああ、そうですか。それを言うなら僕は「Short Drama」かなと思ったんですけどね。コード進行的にも今までよくやっていた感じの曲なので。

すべての基準はポップであること

──ちなみに、この「Play The Hero」ではどんなことが唄われているんですか。

落井:ロック・バンドをやってる人たちに注意を促している曲なんです(笑)。それはある意味、自分自身に向けてもいるんですけどね。内容としては、“いろんな場所でライヴしてないで、早く家に帰って家で待つ人を抱きしめてあげてよ”って唄ってるんですよ。

──ライヴをやらずにだなんて、バンドマンとしてあるまじき内容の歌詞じゃないですか(笑)。

落井:ええ、まぁ(笑)。そういうちょっとハスに見た感じの歌詞が好きなんですよ。自分自身に向けてると言っても、僕らはそんなにライヴをやってないんですけどね(笑)。歌詞の中にカート・コバーンとジミヘンが出てくるんですけど、2人ともロックをやりながら27歳で死んでるんですよね。僕も今27歳なんですよ。で、2人とも僕と同じ歳で死んでるじゃないかと。要するに、世の中は未だに死んだ人をヒーローに仕立て上げてるじゃないかってことを唄ってるんですよ。ロックに夢を語らせることが僕は余り好きじゃないんですね。

──偶像を崇拝するよりも、もっと楽曲至上主義でありたい、と?

落井:そうですね。もっとこう自然にできないものなのかな? と。誰かをワーッと祭り上げて、結局はその人を破滅させてるわけじゃないですか? そういうロック・スターのシステムは僕はイヤだなって思うんですよ。まぁ、全く無名のバンドがそんなことを言っても何の説得力もないですけどね(笑)。

──いや、良質な音楽に有名も無名もありませんよ。あと、本作で秀逸なのは「Different Nights」と「Parting Song」といったメロディアスなアコースティック・ナンバーで、本作の良いアクセントとして効果を上げていますね。

落井:「Different Nights」は3拍子の静かめな曲で、鉄琴を入れてみたかったんですよ。如何にもアコースティックっぽいナンバーですね。「Parting Song」は賑やかなコーラスも入ってるし、リズムもそんなにゆっくりな曲ではないんですけど、ああいう感じの曲をやりたかったんですよね。みんなで唄う明るい曲調なんだけど、何処か切ない感じがあるって言うか。そういう曲をアルバムの最後のほうに置きたかったんですね。

──賑わう祭りの最中からもう祭りの後のことを考えている、みたいなニュアンスですか。

佐々木:実行委員会がもう片付けを始めてる、みたいな?(笑)

落井:そうかもしれない(笑)。「Parting Song」=“お別れの歌”ですからね。このアルバムは、僕のイメージとしては“子供のとある無邪気な一日”を描いているつもりなんですよ。「Fantasy Of Life」の最初に「みんな遊びに行こうよ!」みたいな感じで掛け声が入って朝が始まって、「Different Nights」の静寂がお昼寝の時間。明るい「Melina」からが午後の始まりで、「Parting Song」は夕暮れのイメージ。最後の「Sleep」は文字通りおやすみの時間。「Sleep」で眠ったら、また最初の「Fantasy Of Life」に戻って朝が来るという感じなんですね。コンセプト・アルバムとまでは言わないまでも、統一感はちゃんとあると思うんですよ。音質もこだわって、全体的にちょっと懐かしい感じにしたんです。「Sleep」は最後にシャーッていうノイズがプツプツプツ…って消え入るように終わるんですけど、あの凄く切ない感じが自分でも気に入ってるんですよね。ただ、この古き良きテイストが今のティーンネイジャーにどう響くのかなとは思ってるんですけど(笑)。

佐々木:30手前のむさ苦しい男たちが無邪気にコーラスなんかしちゃってるしね(笑)。

──いや、どの楽曲も普遍性のあるポップなメロディだから、世代の隔たりは超越しているんじゃないですか。このアルバムに限らず、エニ・ミニーの紡ぎ出す音楽はどれもファンタジーに充ち満ちているんですから。

落井:キラキラしてるとはよく言われるんですよね、余り意識したことはないんですけど。僕はただ、ポップなものを作りたいんですよ。僕らも年々歪み系の曲が少なくなってきてますけど、そういうのを感じさせない美メロの曲を増やしたいですね。どれだけバックが歪んでようと、最後に残るのはメロディだと思うので。とにかく、すべての基準はポップであること。ポップの純度が高い音楽をこれからも作り続けていきたいですね。



2nd Full Album
Fantasy Of Life

nicetone/LASTRUM LACD-0142
2,415yen (tax in)
2008.7.16 IN STORES

★amazonで購入する
★iTunes Storeで購入する(PC ONLY) icon

Live info.

enie meenie tour2008“Fantasy Of Life”
9月6日(土)柏ALIVE
with:the shuwa, and more... info:04-7143-2088(ALIVE)
9月7日(日)熊谷HEAVEN'S ROCK VJ-1
with:BEEF, and more... info:048-524-4100(HEAVEN'S ROCK VJ-1)
9月13日(土)名古屋UP SET
with:avengers in sci-fi, Fed Music, and more... info:052-763-5439(UP SET)
9月14日(日)大阪2nd LINE
with:avengers in sci-fi, 24-two four-, and more... info:06-6453-1985(2nd LINE)
9月23日(火・祝)八王子MATCH BOX
w/ puli, and more... info:042-627-7787(MATCH BOX)
9月28日(日)宇都宮HEAVEN'S ROCK VJ-2
info:028-639-0111(HEAVEN'S ROCK VJ-2)
10月12日(日)代官山UNIT
with:WRONG SCALE, FINE LINES, 24-two four- info:03-3464-1012(UNIT)

others
7月6日(日)下北沢 SHELTER
7月12日(土)さいたま新都心 HEAVEN'S ROCK VJ-3
7月13日(日)横浜 F.A.D
7月19日(土)新宿 Nine Spices
7月21日(月・祝)下北沢 ERA

enie meenie official website
http://www.eniemeenie.com/

posted by Rooftop at 15:10 | バックナンバー